補足資料S1: 喉頭および声帯の構造

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この記事は2012年8月17日に書いたものです。 情報が古くなっている可能性があるのでご注意ください。

【 目次 】

S1: 喉頭および声帯の構造

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ここでは, 発声に関わる人体の構造について補足としてまとめました. 構造の概要を理解するためのページです. 発声の勉強というより解剖学的な側面が強いです.  あくまで発声の勉強で様々な本を読むための単なる補足資料でしかないと最初に断っておきます 苦笑

S1 – 1. 上部呼吸器系における喉頭 (概要)

喉頭は軟骨質の構造であり, 咽頭と気管の間の空気の通り道です (fig 1).

fig 1 上部呼吸器の模式図 

喉頭は三角形の箱のような形をしており, 三角形の頂点の部分に喉頭隆起 (のど仏) があり, 首の前方に位置しています (fig 2). 喉頭には声帯があることから, 英語でvoice boxともいいます.

fig 2 声帯の構造 (上から見た図)

声帯は一対の粘膜のヒダであり, 「かなり大まかに言えば」, 筋肉層粘膜層で覆われた2層構造 (あるいはその間に移行部 (声帯靭帯など) を加えた3層構造) をしています.  声帯は八の字のように開いており, 声帯 (正確には真声帯) とその間の空間を含めて声門といいます. 音は空気が声門を通って吐き出される時に声帯が震えることで生じます. fig 2の声門は呼吸時の状態ですが, 発声時は声門は狭ります.

さて, 大ざっぱな構造について触れましたが, これから先はもう少し声帯の構造についてもう少し掘り下げていきます.

S1 – 2. 声帯の層構造

ここでは声帯の層構造について補足していきます.

1-2で声帯 (真声帯) は粘膜層と筋肉層の 2層構造だと言いましたが, 実際はもっと細かく分かれるようです (3-5層) (fig 3).

fig 3 (真) 声帯の層構造. 表面より粘膜 (粘膜上皮, 粘膜固有層 – 浅層 , 中間層, 深層) , 甲状被裂筋と組織が複雑に層をなしている.

層構造を表面から箇条書きにすると・・・

真声帯 (声帯ヒダ/声唇)

◆ 粘膜層

・粘膜上皮: 非角化重層扁平上皮/多列線毛上皮

・粘膜固有層: 弾性線維, 膠原線維, 血管, リンパ管, 喉頭腺などがありその間を基質が占めている

・浅層 (ラインケ腔): 弾性/膠原線維ともに少なく, 液性成分が多い

・中間層: 特に弾性線維が多い

・深層: 特に膠原線維が多い

◆ 筋肉層

・甲状被裂筋 (声帯筋)

※ 浅層は粘膜上皮と声帯靭帯との間の隙間で, 『ラインケ腔 (Reinke’s space 』と呼ばれています. 浅層〜深層を移行部と呼ぶ場合もあります.

※ 弾性円錐と声帯筋の一部は密な結合を作り声帯靭帯 (顕微鏡レベルで見えるほど薄い) を形成します (fig 4-B). 声帯靭帯は甲状軟骨前連合から披裂軟骨声帯突起を結び, 声帯筋に沿って張ることで真声帯を支えています. 前後長は成年男性で 2cm くらい, 成人女性で 1.5cm くらいだそうです. 声帯靭帯は振動体として機能します. ただし, 自分では動かせません.

このように実際に分類してみると, かなり曖昧で複雑です. なので, ここは単純化して

「真声帯の層構造は, (表層から)『粘膜上皮→ラインケ腔→声帯靭帯→甲状被裂筋 (声帯筋)』 となっている.」

・・・という理解で十分だと思われます (あくまで発声の勉強という観点からは).

S1 – 3. 喉頭の構造

さて, ここでは喉頭の構造について簡単にまとめました. 人体という事なので平面で説明するのは難しく, 色んな向きからとらえた図をご用意しました (fig 4). 図が小さくて見にくい場合はクリックで拡大できます.

喉頭腔内面の両外側壁にはほぼ中央の高さで前後に走る上・下のヒダがあり, 喉頭腔を上・下の2部分に区分しています. 下方のヒダを真声帯 (声帯ヒダ, 声唇とも) といい, 相対する真声帯の間に声門裂ができます. この真声帯と声門裂を合わせて声門といいます. 声唇の上方のヒダは仮声帯 (室ヒダ, 前庭ヒダとも) といい, これより上方の喉頭口までを喉頭前庭といいます. 真声帯と仮声帯との間には外側方に向かって紡錘形の深いくぼみができ, これを喉頭室といいます (fig 4-A). この部分の粘膜にはとくに豊富な分泌腺があり, 声帯ヒダの上面を滑らかにするのに役だっているようです.


 

fig 4 喉頭の構造. A: 前額断面; B: 正面から見た図; C: 後ろから見た図

※ 多くのヴォイストレーニング関係のサイトでは声帯筋を「声唇」として取り扱っているようですが, 解剖学的見地からすると声唇とは真声帯そのもののことを指すようです.

次に, 喉頭の骨格について取り出し, まとめました (fig 5)

fig 5 喉頭の骨格. A: 横から見た図; B: 上から見た図

図を見ると声帯の前方は甲状軟骨内中心部に, 後方は披裂軟骨に付着している事が分かります (fig 4-B).

声帯はボックス状の甲状軟骨の内側に収まっており, 外喉頭筋群, 内喉頭筋群と靭帯がこの枠組みを連結し, 可動させています.

外喉頭筋群は喉頭外部を固定し, 内喉頭筋群は声帯の形や緊張, 開閉の度合いなどを調節し, 声の変化 (高低, 音色, 持続, 強弱) を作り出す役割をします.

甲状軟骨は固定されてはおらず, 茎突咽頭筋 (けいとついんとうきん) や茎突舌骨筋 (けいとつぜっこつきん) などで頭蓋骨の耳の下あたりからつり下げられています (fig 6).

fig 6 声帯を守っている甲状軟骨は固定されておらず吊り下げられている 

S1 – 4. 内喉頭筋群

声帯の動きを調節する内喉頭筋群についてまとめました. fig 4も参照して正確な各筋肉の位置を把握してください (fig 7).

内喉頭筋は自分で動かせる筋肉 (随意筋) に分類されています・・・が, 現実的には自分の意思でコントロールするのは不可能です (そのため半随意筋という人もいるらしい). ・・・とは言え, 感覚をつかむと少しその動きを察知できるようになる (らしい) ので, 各筋肉の位置を知っておく事は重要だと思われます.

fig 7 内喉頭筋. A: 横から見た図; B: 上から見た図

内喉頭筋群は声帯の形, 長さ, 緊張度, 開閉などを調節し, 多彩な声の高低, 強弱などを作ります.

例えば, 輪状甲状筋 (前筋) は声の高さを調節するために働きます. 甲状軟骨と輪状軟骨をつないでいる筋肉ですが, これが縮む事で甲状軟骨が少し前に傾き (下がるわけではない) (※), 甲状軟骨の裏側についている声帯が前後に引き伸されることで高い声になるようです (fig 8).

声帯自体は縮む事は出来ても伸びる事は出来ません (どの筋肉にも言える事ですが) . 声帯が伸びるには他の筋肉の働きが必要であり, その声帯を伸ばすという役目を担っているのが輪状甲状筋というわけです.

fig 8 輪状甲状筋の働き

※ 會田茂樹先生 (ボイスケアサロン院長) によるとこれは誤りだそうです. (ブログ記事: 「間違わないで!《輪状甲状関節の動き》」参照)

この輪状甲状筋は発声の本やブログ記事などで必ずと言っていいほど出てきます. YUBAメソッドを開発した弓場徹先生によると音痴の原因はこの輪状甲状筋が弱いのが原因である場合ほとんどだそうです. (もちろん輪状甲状筋が働く環境さえ正常ならという但し書きがつくはずですが.)

甲状被裂筋 (内筋) は声帯の外側を並走し, 声帯を短縮・弛緩させる働きがあります. 甲状被裂筋の内側の筋肉を声帯筋と独立して呼びます. 外側輪状被裂筋 (外筋) や横被裂筋 (横筋) では閉じきれなかった声帯中央部分を閉鎖する働きがあります.

声帯筋を形成している随意筋は1本の筋肉ではなく, 斜めに交差して声帯靭帯の縁辺にまで達しているいつくかの筋によって形成されています. そして、それぞれの筋は単独にも一緒にも働かせることができ, また, 同じ筋内でも部分的に働かせることもできるようです. これらの筋の複雑な働きによって, 声門の形・状態をどんな風にでも変化させることができるわけです. このような背景から声帯筋を交錯筋と呼んでいる人もいます.

「外筋, 横筋だけでは声帯はしっかりとは閉じられず, 高い声を出す時に声帯が伸ばされると, 声門の中央にわずかな隙間が生じます (頭声はこの状態). 声門に隙間が生じると, 声が暗めになり, 前には響き難くなります. 真声帯の交差筋の働きによって, その隙間は完璧に閉じることができます. 

交差筋が思うように働いてくれないと, この隙間を閉じる為に, 側筋や横筋にその仕事をさせようと一層力を込めてしまうでしょう. 本人は声帯を緊張させたつもりなのですが, 実際には関係のない筋肉を過度に使ってしまうのです. これも喉に不要な力の入った悪い発声です (小野尊由, 吟詠の為のヴォイス・トレーニングより)。」

内喉頭筋群のまとめ

  • 輪状甲状筋 (前筋): 声帯を引き伸す (声が高くなる)
  • 甲状披裂筋 (内筋/声帯筋) : 声帯を緊張させる, 声帯の開閉 (声にハリが出る/声が高くなる)
  • 後輪状披裂筋 (後筋): 声門を開大する (無声になる)
  • 外側輪状披裂筋 (側筋): 声門を閉鎖する (前半部への作用大)
  • 横披裂筋 (横筋): 声門を閉鎖する (後半部への作用大)

S1 – 5. 外喉頭筋群

外喉頭筋は, 喉頭の周りに存在する筋群です (fig 9). これらが喉頭を上下に引っ張り, 引っ張る向きによって次の2つに分けられます.

  • 引き上げ筋・・・喉頭を引き上げる. 引き下げ筋に対抗して, 綱引きのように喉頭を引っ張り合う.
  • 引き下げ筋・・・喉頭を引き下げて声帯を伸展させる (輪状甲状筋の内喉頭筋もこれに関わる)

fig 9 外喉頭筋群 (模式図)

(1) 甲状舌骨筋: 舌骨と甲状軟骨を結ぶ. 収縮すると喉頭前部が上に引き上げられる. 誤った発声法だと高音発声時にこの筋肉が働かせてしまいがちになり, 苦しそうな声になる.

(2) 口蓋喉頭筋: 喉頭と口蓋垂を結ぶ筋肉. 喉頭の後部を口蓋へ引き上げる口蓋垂を上に引き上げる.

(3) 茎状咽頭筋: 喉頭から耳の後ろ側へと伸びている筋肉. 喉頭の後部を後方上へ引き上げる筋. 喉を開く際に, ①の胸骨甲状筋と対になって働く事が多い.

(4a) 輪状甲状筋 (前筋): S1-4に示したとおりです.

(4b) 胸骨甲状筋: 喉頭を前下方に引き下げる筋. 高音で喉仏が上がるにつれ下に引っ張り支える.

(5) 輪状咽頭筋: 輪状軟骨と脊柱 (背骨) を結ぶ筋肉. 喉頭の後部をうなじに向って下へ引き下げる筋. 歌においてはとても重要な筋肉ですが, 普段の会話ではあまり機能しないため, この筋肉に限っては多くの練習が必要.  喉を開く際に働く.

(α). 後輪状被裂筋 (後筋): 喉頭の後部にあって, 声帯が閉じる働きを助ける筋. 吸気の際に声門を広げる. 声帯を伸展させる補助をしたり, または拮抗させる.

・・・と箇条書きしましたが, 詳しい働きについては小野尊由氏の「吟詠の為のヴォイス・トレーニング」の記事などを参照してください.

S1 – 6. 総括および参考文献

この記事では喉頭の構造について簡単に一部突っ込んだところまで書いてきました。ヴォイストレーニングのブログはたくさんありますが、多くは引用の引用のためか書いてある事が記事によってバラバラだったり不正確だったり、 模式図だけで構造の実感が掴めなかったり、といったことが多かったように思えます・・・かといって詳しい構造を調べようと思ってもネットでは喉頭の構造を網羅したページはありませんでした。なので構造についてのデータベース的なページがあってもいいんじゃないかと思ったわけです。
なるべく正しい情報を載せられるように、色々な専門書、論文、発声の本を読みあさりました。しかし、喉頭は専門外ですし、誤りもあるかもしれません。その場合はコメントでもメールでもいいのでご指摘して頂けると非常にありがたいです。 本記事が発声の勉強の補助としてお役に立てればこれ以上の喜びはありません。
いずれ発声の実践に則した記事を書ければと思うのですが、すでに素晴らしいブログやホームページがあるので必要ないかなと思っています。参考文献の項目にも載せますのでそちらを参考にしてください。気が向いたら自分でも何か書くかもしれませんが。
(なお、本記事に利用した図は自分のオリジナルではなく、専門書や論文やブログ記事などの図を改変したものです。なので無断転記はしない方が無難です。大元の図を引用するなり改変するなりしてください。)
参考文献
  1. フレデリック・フースラー: うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ, 音楽友之社, 1987
  2. 和田美代子, 米山文明: 声のなんでも小辞典, 講談社ブルーバックス, 2012
  3. Sylvia S. Mader: HUMAN BIOLOGY 10th, McGraw-Hill Science/Engineering/Math, 2008
  4. Frank H. Netter: ネッター解剖学アトラス 原著4版, 江南堂, 2007
  5. S. Kenichi “Production Mechanism of Quality in Singing”, Journal of the Phonetic Society of Japan, Vol.7, 7-39, 2003
  6. 平野実, 小池祐一, 広瀬幸矢, 森尾倫弘: 振動体としての声帯の構造, 日耳鼻, 76-1341, 1973
  7. 平野実, 栗田茂二朗, 永田和人: 声帯の層構造と振動, 音声言語医学, 22: 229-224, 1981
  8. 徳田功 (上智大学): 人間情報処理学特論の講義資料 (知人の頂き物)
  9. Min Yu (Maryville University) : 解剖学の講義資料 (だと思います)
  10. Greater Baltimore Medical CenterのAnatomy & Physiology of the Voiceのページ
  11. 当間修一: 「OCM合唱講座
  12. 小野尊由: 「吟詠の為のヴォイス・トレーニング
  13. 會田茂樹: 「喉ニュース 【喉と声の辞典】

 

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